気と経絡の研究会

肩関節痛

肩関節痛の1症例

患者 52歳 男性
初診 平成21年3月23日

主訴 左肩関節痛
望診 顔は浅黒く、太っている。がっしりとした固太りタイプ。
   尺部の色はやや黒

聞診 声は大きく、やや甲高い感じ。五声は参考にせず。

問診 2週間ほど前より急に左肩関節が痛み出した。肩関節の可動性は十分にあるのだが肩関節打ちぶん回しで肩関節外側に痛みがでる。
肩こりがあり、左肩が重い。夜間痛というより朝方に痛みを感じるとのこと。

   現在通院、服薬はなし。
   既往歴も特記事項なし。5年前に当院にて急性腰痛症で来院した程度。
   検診でひっかかったこともなし。

   タバコは1日1箱。お酒はほとんど飲まない。
   食欲はあり。便通は便秘ぎみ。

切診 全体的に皮膚は荒い。本人は特に左肩の肩こりを訴えるが、左右差はとくに感じられない。
   左右ともの所見であるが、ナソ部は硬く生ゴム様といった感じである。
   肩井、天髎、曲垣付近に圧痛。心兪、隔兪、膏盲付近にも硬結と圧痛。
   左の中府、雲門、上腕骨結節間溝あたりにも圧痛。

   腰仙部には冷え、細絡あり。
   下腿にややむくみ有り。
   掌中は熱感。足は足首から先が冷えているが本人には自覚症状はなし。

腹診 中脘穴より陰交穴あたりまでの脾の見所最も虚。
   陰交より恥骨上際までの腎の見所やや虚して冷えている。
   右季肋部の日月、腹哀よりやや斜め下の肺の見所は左と比較しても平。
   臍の左側胆経の帯脈穴より居髎穴あたりの肝の見所も平。
   中脘穴より上鳩尾穴までの心の見所も平とみました。
   大腹は比較的温かい。

脈状 浮、数、虚

比較脈診 右関上沈めて最も虚して、やや広がっている感じの脈を呈している。
     左関上浮かせてややあり。その他は差を感じない。
     全体的に力なく弱弱しい脈である。

経絡的弁別 皮膚の色、小腹の冷えは腎経の変動
      肩甲間のこりは膀胱経の変動
      比較脈診での右関上の脈状、便秘、下腿のむくみは脾の変動に分類した
      掌中の熱感は心包経の変動ととらえました

証決定 総合的に判断して脾虚とし、腎虚の相剋調整も思慮にいれて施術決定。

予後判定 病は日が浅く、可動域制限もないことから予後良好と判断しました。

適応側 男性ですが、症状が左であること、臍の盛り上がり、中脈の強さから右適応
    側と判断。

施術 
1回目 本治法 右太白を取穴し銀鍼寸3、2番にて経に従って接触、刺入、気を伺う。
    気が至ったのを度として左右圧をかけ抜鍼。すばやく鍼口を閉じる。
    検脈すると脾の脈がやや締まった感じになったので良しとしました。

    続いて右大陵を補い、もう一度検脈すると左の脈全体にも力が出て、とくに
    関上、尺中の肝腎の脈が力強い脈になったので相剋調整は選択せず、脾虚証の
    みで様子をみることとした。

    続いて陽経の処置に移りましたがとくに邪を感じる経がなくやや胆経の邪があるように感じられたので左光明に軽く潟法(塵と思われる虚性の邪を処置するため補中の潟とした)。

    標治法 左肩背部、肩上部、ナソ部を中心に硬圧部、圧痛部位を中心に補的
    散鍼。脈が全体に虚であったのを考慮して弱めの鍼刺激としたが、とくにナソ部の生ゴム様の硬い部位にはステンレス寸3、2番を用いて潟法を加えた。

    最後にもう一度検脈すると左に比して、まだ脾の脈が虚しているように感じたが、ドーゼ過多になるのを考慮して様子をみてもらうこととしました。

2回目 前回の施術後、運動時痛は半分くらい改善されたとのこと。
    結果良好であったことと、所見が前回とほぼ同じであったことから、前回同様の処置をした。

3回目 運動時痛は前回とほぼ同じくらい。痛みの程度は確実に改善されているというが、朝の肩の痛みは同様にあり、あまり改善されていないという。

    入念に検脈しなおし、やはり前回同様に処置をした。

    施術の最後に検脈すると左の脈が全体的に荒々しい。
    とくに関上の脈は実脈かと思うくらい激しく脈打つようになっている。

    ここに至って、問診からやり直した。
    朝、痛む部位はどこか? 左肩上部から首筋にかけてであるとのこと。

    もう一度検脈する。しばらく診ているとやや脈が飛ぶような気がする。

    血圧を測定すると184-110であった。普段の血圧は上が140台であるとのことであったので念のため病院の受診をすすめて終了した。

経過と考察
  その後のこの患者の来院はじつはありませんでした。
  ですが、数ヶ月後に心臓カテーテル、ステントの処置を受けたとの患者家族から
の報告を受けています。

  3回目に問診、脈診をやり直していますが、根拠があって心臓疾患を疑ったわけで
  はありません。

  ただ、それ以前の症例で70歳代の男性患者を診たときに見た目が非常に
虚体であったのに脈が実脈かと思うほど力強い脈を呈していました。
  それを立派な脈で予後良好としたのですが、1ヵ月後に心臓疾患でお亡くなりに
なっているのです。

  老人(虚体)の脈は虚濡にして凛なるものを長ずる脈、という言葉がありますが、
  実体と相反する脈は逆におかしいということです。

  本症例もじつは施術後の左の寸関尺の荒々しい脈が本来の脈ではなかったかと
考えました。
        
  脾の虚を補うと同時に心包も補っていますから、その結果として本来の脈に
  戻せたのではないかと考えます。

  正直に言えば、本治法後の脈の乱れが本当にそのような理由であったかどうかは
  わかりません。
  ただ検脈力不足、鍼の技術不足の結果であっただけかもしれませんが、
  結果オーライということで、終わりよければすべて善し。

  以上です。

                  平成22年4月 症例報告 
                            為沢 智章

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