望診講座83 「経絡治療の症例 肩関節痛」

目安時間8分

昔の症例報告が残っていたので書き記します。

 

まだ、とある経絡治療学会の学術部にいたころの症例かと思いますが、このころから気を診る望診の練習はしていたと記憶しています。

 

・・・あまり良い症例ではないのですが、まあこんな事もあるのかという感じで気軽に読んでください。

 

 

肩関節痛の1症例

患者

52歳 男性

 

初診

平成21年3月23日

 

主訴

左肩関節痛

 

望診

顔は浅黒く、太っている。がっしりとした固太りタイプ。

尺部の色はやや黒

 

聞診

声は大きく、やや甲高い感じ。五声は参考にせず。

 

問診

2週間ほど前より急に左肩関節が痛み出した。肩関節の可動性は十分にあるのだが肩関節打ちぶん回しで肩関節外側に痛みがでる。

肩こりがあり、左肩が重い。夜間痛というより朝方に痛みを感じるとのこと。

 

現在通院、服薬はなし。

 

既往歴も特記事項なし。5年前に当院にて急性腰痛症で来院した程度。

検診でひっかかったこともなし。

 

タバコは1日1箱。お酒はほとんど飲まない。

食欲はあり。便通は便秘ぎみ。

 

切診

全体的に皮膚は荒い。本人は特に左肩の肩こりを訴えるが、左右差はとくに感じられない。

左右ともの所見であるが、ナソ部は硬く生ゴム様といった感じである。

 

肩井、天髎、曲垣付近に圧痛。心兪、隔兪、膏盲付近にも硬結と圧痛。

中府、雲門、上腕骨結節間溝あたりにも圧痛。

 

腰仙部には冷え、細絡あり。

下腿にややむくみ有り。

掌中は熱感。足は足首から先が冷えているが本人には自覚症状はなし。

 

腹診

中脘穴より陰交穴あたりまでの脾の見所最も虚。

陰交より恥骨上際までの腎の見所やや虚して冷えている。

 

右季肋部の日月、腹哀よりやや斜め下の肺の見所は左と比較しても平。

 

臍の左側胆経の帯脈穴より居髎穴あたりの肝の見所も平。

中脘穴より上鳩尾穴までの心の見所も平とみました。

 

大腹は比較的温かい。

 

脈状

浮、数、虚

 

比較脈診

右関上沈めて最も虚して、やや広がっている感じの脈を呈している。

左関上浮かせてややあり。その他は差を感じない。

 

全体的に力なく弱弱しい脈である。

 

経絡的弁別

皮膚の色、小腹の冷えは腎経の変動

肩甲間のこりは膀胱経の変動

 

比較脈診での右関上の脈状、便秘、下腿のむくみは脾の変動に分類した

掌中の熱感は心包経の変動ととらえました

 

証決定

総合的に判断して脾虚とし、腎虚の相剋調整も思慮にいれて施術決定。

 

予後判定

病は日が浅く、可動域制限もないことから予後良好と判断しました。

 

適応側

男性ですが、症状が左であること、臍の盛り上がり、中脈の強さから右適応側と判断。

 

 

施術1回目

本治法 右太白を取穴し銀鍼寸3、2番にて経に従って接触、刺入、気を伺う。

 

気が至ったのを度として左右圧をかけ抜鍼。すばやく鍼口を閉じる。

 

検脈すると脾の脈がやや締まった感じになったので良しとしました。

 

続いて右大陵を補い、もう一度検脈すると左の脈全体にも力が出て、とくに関上、尺中の肝腎の脈が力強い脈になったので相剋調整は選択せず、脾虚証のみで様子をみることとした。

 

続いて陽経の処置に移りましたがとくに邪を感じる経がなくやや胆経の邪があるように感じられたので左光明に軽く潟法(塵と思われる虚性の邪を処置するため補中の潟とした)。

 

標治法

左肩背部、肩上部、ナソ部を中心に硬圧部、圧痛部位を中心に補的散鍼。脈が全体に虚であったのを考慮して弱めの鍼刺激としたが、とくにナソ部の生ゴム様の硬い部位にはステンレス寸3、2番を用いて潟法を加えた。

 

最後にもう一度検脈すると左に比して、まだ脾の脈が虚しているように感じたが、ドーゼ過多になるのを考慮して様子をみてもらうこととしました。

 

施術2回目

前回の施術後、運動時痛は半分くらい改善されたとのこと。

 

結果良好であったことと、所見が前回とほぼ同じであったことから、前回同様の処置をした。

 

施術3回目

運動時痛は前回とほぼ同じくらい。痛みの程度は確実に改善されているというが、朝の肩の痛みは同様にあり、あまり改善されていないという。

入念に検脈しなおし、やはり前回同様に処置をした。

 

施術の最後に検脈すると左の脈が全体的に荒々しい。

 

とくに関上の脈は実脈かと思うくらい激しく脈打つようになっている。

 

ここに至って、問診からやり直した。

朝、痛む部位はどこか? 左肩上部から首筋にかけてであるとのこと。

 

もう一度検脈する。しばらく診ているとやや脈が飛ぶような気がする。

血圧を測定すると184-110であった。普段の血圧は上が140台であるとのことであったので念のため病院の受診をすすめて終了した。

 

経過と考察

その後のこの患者の来院はじつはありませんでした。

 

ですが、数ヶ月後に心臓カテーテル、ステントの処置を受けたとの患者家族からの報告を受けています。

 

3回目に問診、脈診をやり直していますが、根拠があって心臓疾患を疑ったわけではありません。

 

ただ、それ以前の症例で70歳代の男性患者を診たときに見た目が非常に虚体であったのに脈が実脈かと思うほど力強い脈を呈していました。

 

それを立派な脈で予後良好としたのですが、1ヵ月後に心臓疾患でお亡くなりになっているのです。

 

老人(虚体)の脈は虚濡にして凛なるものを長ずる脈、という言葉がありますが、実体と相反する脈は逆におかしいということです。

 

本症例もじつは施術後の左の寸関尺の荒々しい脈が本来の脈ではなかったかと考えました。

 

脾の虚を補うと同時に心包も補っていますから、その結果として本来の脈に戻せたのではないかと考えます。

 

正直に言えば、本治法後の脈の乱れが本当にそのような理由であったかどうかはわかりません。

 

ただ検脈力不足、鍼の技術不足の結果であっただけかもしれませんが、結果オーライということで、終わりよければすべて善し。

 

以上です。

 

 経絡治療の勉強会にて

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古代の望診法とは

古代に存在した「望診法」はダイレクトに気と経絡を見る技術だったのではないかと考えています。

3000年以上前の診察法の言葉に「望んで知る、これ神」という言葉があります。

この言葉は現代では、見ただけで診断ができるのは神様のようなものだ、という意味に解釈されています。

しかし、この言葉がつくられた(約3000年前)当時の「神」という漢字の意味は現代のような神様仏様のような意味ではなく、

神=自然(の気の流れ)という意味であったのです。

つまり、「望んで知る、これ神」の意味は、まず望診で気の流れを見ましょう、という意味であったのだと思います。

ですから、望診は診察手順の第1にくるのです。

四診合算という言葉があります。

望診、聞診、問診、切診の総合評価で証決定をしましょうという意味にとられています。

ですが、古代の望診のあり方を考えると、四診合算ではなくて、四診はその手順どおりに並んでいるだけです。

最初に望診で気の流れを把握しましょう、次に聞きましょう(聞診)、問いましょう(問診)、切(触診)してみましょう、と続いていくのす。

診察の手順としてまず望診ありきで、ここで患者の体のバランスが自然な状態(元の健康な状態)からどれくらい逸脱していて、どこに異常があり、どこが治療のポイントかを把握してしまいましょう、とうのが望診なのです。

ですから、望診というのは、神業だという意味ではなく、通常の診察手段として、最初に来るべきものなのだと考えております。

潜象界について

潜象界とは、現象界の対義語(造語)ですが、現象界は人がその五感で感じ取れる実体の世界のことです。それに対して、現象界とまったく同時に同じ空間に存在しながらも、五感では感じ取ることのできない世界を潜象界と言います。

潜象界はいわゆる「気の世界」であるとも言われています。

その潜象界からの情報は現象界で起こっている事象に先駆けて動き、その潜象界の動きが具現化されて、現象界で実体としての動きに繋がっているとされています。ただ、いまのところすべてが仮説であり、それを数値化、もしくは映像化して確認する方法がありません。

唯一、確認する方法があるとしたら、それは人本来がもっている原初感覚を呼び覚ますこと。

この原初感覚は気を実感として感知することが可能で、その原初感覚をもってすれば、潜象界での気の動きを捉えることができるからです。

その原初感覚を使った望診法が当ブログでいう「古伝の望診」なのです。

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